#2 クラスターフェス

マスクを着けずに山手線に乗ろう。

そんなデモをする集団があるそうだ。クラスターフェスと呼ばれている。

コロナウイルスの感染が心配される社会において,なぜこんなことをするのか,他人に迷惑をかけるのか,感染したら責任をとれるのか,という批判の声がSNSではみられる。

 

フェスの参加者はコロナを蔓延させたいのだろうか。答えはノーだ。彼らはそういう話はしていない。

彼らの主張はこうだ。

「マスクをつけることで疾患が生まれる」「コロナは風邪と同じであり,マスクをつける必要はない」

つまりは,コロナウイルスの予防より,マスクをつける方がデメリットが大きいとしているのだ。

 

言いたいことはわからなくはない。事実であれば,確かにマスクをつけない方がいいのかもしれない。

ただ,伝え方はよろしくない。動画やデモの様子を見ても,何故マスクをつけない方がいいのか根拠が伝わらない。科学的なデータもない。

そして,伝え方からは,マスクをつける人をあおっているような様子も見られる。これでは,対立する意見の人が話を聞いてみようと思えない。

そんなわけで,無用な対立を生んでいるように思う。

 

さて,対立の解消は他の誰かに任せよう。

本日の議論はこれだ。

「外出をするときにマスクをつけるのはエチケットかどうか」

議論に移る前に簡単に定義をしておく。エチケットとは,「法的義務ではないが,他人の前では基本的にしておくべき作法」としておこう。これが一般的な定義かどうかはわからないが,今回はわかりやすさのため,そう定義する。

 

去年までは確実にマスクのエチケットはなかった。

もちろんマスクをつける人がいなかったわけではない。ただ,つけていたのは風邪を引いた人,花粉症になっている人,のどの乾燥を防ぐ人などであり,世間の大半はマスクはつけていなかった。

コロナウイルスの蔓延によって,この多数派と少数派が逆転する。現在では少なくとも東京の街並みでは,マスクをつける人の方が多数に見える。

 

さて、ではマスクをつけることはエチケットだろうか。

大多数の人は「現在ではエチケットである」と答えることが想像できる。

では何故現在ではエチケットなのか。

 

 

さて

一つの理由はこうだ。

コロナウイルスが蔓延しているから」

コロナウイルスに誰しもが感染している可能性がある。自分が発症しなくても誰かにうつす可能性がある。うつした相手には命の危険があるかもしれない。だからマスクをつける。

これはわかりやすい論理だ。

だが,果たしてこれですべて片付くだろうか。マスクをつけたくない人は納得するだろうか。

納得しない人がいる。現実クラスターフェスが起きている。なぜ納得しないのか。うつした相手に命の危険はない。マスクでは感染は防げない。コロナウイルスに感染している人は少ない。マスクをつける方がより危険な病気にかかる。様々な理由が考えられる。

 

これらの反論に対して,エチケットだという派の主張は例えばこうだ。

「世間でコロナウイルスが蔓延していること。感染者が多いこと。死者が出ていることは事実なのだから,反論のほとんどは事実無根,根拠となっていない」というものだ。また「マスクも感染症予防の基本であり,効果がないはずがない」ということが挙げられる。

反論として十分にも思える。ただ,例えば,さらにマスク反対派が反論するとすれば,「コロナウイルスの蔓延の認識はメディアの作った虚構だ」というものもあり得るだろう。メディアの虚構なのか,事実なのか,これはメディアの信頼度による。これについての議論はまた別にしよう。

 

マスク反対派の議論はこれで終わりかというと,実はもう一つ,根本的な批判ができる。

「そもそも法律にもなっていない,マスクをつけたくもない人もいる,去年まではマスクをだれもつけていなかった,そういう事実があるのに,何故マスクをつけることをエチケットなどと押し付けられなければならないのか。押し付けられる根拠は何か」

 

エチケットそのものの根拠を問うものである。

定義は最初にした。しかしその根拠は曖昧なままだ。

 

一つの答えは「多数派が求めているから」というものだ。

確かに現在の国民の大多数はマスクをつけることを求めているように思える。しかし,国民全員にアンケートがとられたわけではない。本当に大多数が求めているかどうかはメディアの印象操作でしかない可能性もある。

また,多数派が間違っている可能性はないのだろうか。間違っていても多数派が求めたら正しいということになるのだろうか。正しいといってもいいかもしれない。ただし,多数派の正義を貫く民主主義は法律に明確かつ分かりやすく反映されている。本当に多数が求めているのであれば,まず法律にしてから言え,という話にもなりうる。

 

もう一つ,答えが考えられる。「コロナが蔓延していることが事実かどうかわからないにしろ,マスクをつけていれば,守られる可能性があるのだから,とりあえずマスクをしておくべきだ」というものだ。コロナの性質を不確定要素として受け入れたうえで,とりあえずマスクをつけておけばいいというものだ。

しかし,これに対しては,先ほどマスク反対派の反論がそのまま使える。「マスクを使うことに対するデメリットもある」。

 

 

現在の社会では,公共機関の中ではマスクをつけることが当然のように求められる風潮がある。これは世間の風潮といってもいいし,市民をまとめる議員が求めているからだということもある。

ただ,少数派かもしれないが,マスクをつけたがらない人がいるということ,自分たちが強要できる立場に本当にあるのかどうか.、その根拠は何かは今一度考えてみても面白いと思う。